旅の師匠と勝手に思っている人がいる。
もう数年前に鬼籍に入られてしまったが、高校時代の世界史の先生だった。
受験対策なんて気にしない、なかなかエキサイティングな授業を行う先生で、4月の一番最初の授業(猿人とか原人とかその辺りの話だ)で教室に入ってきた彼はサルの被り物をしていて度肝を抜かれた記憶がある。
今思えば、あれで心を鷲掴みにされたし、その後も授業の度に該当時代の仏像とか、青銅器とか色々出てきてそれを見るのも楽しかった記憶がある。
受験を世界史で受けると決めた時は受験対策で補講もやってくれたのだが、それをやったのは教員の準備室で、入ったら所狭しと置かれた謎の品々に驚いたものだった。聞けば、休みは旅行に費やし、行く先々で入手してきたものを教材として使っているのだという。
中には「シュールストレミングが開けたくて買ってきた」というビニール製の毒ガスマスク(よく手に入れられたな……というか、屋内でシュールストレミングは空けてはいけないのでは)とか、物騒な話だが刀が入った仕込み杖(ただし錆びてて斬れない)なんかもあって、ちょっとした私的博物館のようだった。
教育実習で母校にお邪魔した時には、その先生のお世話になったのだが、「古代インド史な」と専門外の内容を指示されて困惑した私の前に謎の女神像を置き、像の由来から入手方法までたっぷり語った後に「教材として使っていいから」と優しさなのか無茶振りなのか分からないアドバイスもくれた先生である(ちなみに授業は大失敗した。私の技量の問題である)。
そんな先生と補講、教育実習と接点が多かったせいか、よく旅をする上での豆知識を伺っていた。
覚えているのはあんまりないが、この辺りは頭の中によく残っている。
・お金を持っていなさそうな格好をする
日本人=金持ちというイメージもあるが、こぎれいな格好をして強くなさそうな奴は狙われやすいから、どう見ても持ってないラフな格好をする。貴重品は腹巻の中に入れておく。
・新聞紙は役に立つ
寒ければ体に巻く、割れ物を包む、汚れている場所に敷いて座布団代わりにする、最終手段でトイレットペーパーになる……等、使い勝手色々の割にすぐに手に入る。ついでに持って帰れば旅の思い出にもなる。
・知的好奇心を忘れずに
どちらにしても「お客さん」なのだから、知的好奇心は丸出しで行け。勿論、相手への尊敬と感謝は忘れずに。そして、身の安全は自分の中で線引きをしたうえで。
……なんかこんなことを言ってた気がするんだけど、実際に文章にしてみると「こういうニュアンスだったのかな?」と首をかしげてしまう。
あと、こうやって書いてみると先生結構バックパッカーのような旅をしていないか!? と、お姫様旅行をしてしまう教え子は何も守ってない気がする。ただ、新聞紙とか雑誌はめちゃくちゃ役に立つのでお世話になってる。
いずれにしても、あの先生がいた事で自分の中の旅行とは「その国の歴史と文化を肌で知れる絶好の機会」という意識が強く働いているのは間違いない気はする。
とりあえず、まだ旅まで日程あるし、現地の雰囲気に浸れる本でも読みますかね。